今年2022年末、ハワイでは75年ぶりとなる鉄道「HART」が一部開通します。
主な公共交通機関はバスとタクシーしかなかったホノルルを約40分で横断できる鉄道が通ることで、これまで以上に観光がしやすくなっていくことでしょう。いまハワイで多くの観光客が注目し期待している事業計画になります。
実は新型コロナウイルスの蔓延による資金の枯渇や周辺地域の再開発の遅れなどにより、一時は実現できないのではないかといわれていました。しかしハワイ州全体の増税などによる資金調達などによってなんとか今年中の開通が決定。
まずはホノルルの西部側の路線を運行させ、徐々に中心部へと繋ぎ伸ばしていく予定です。
そこで今回はこのHARTについて、開発することになった背景や観光客にとってのメリット、予定されている路線について最新情報をまとめていきたいと思います。
日本の最新技術を用いた列車

それではまず概要からご説明していきましょう。
ホノルル・レール・トランジット、通称HARTと名付けられたこの列車は、オアフ島の副都心として開発が進められている街カポレイからホノルル国際空港を通り、ホノルルの中心までを結んでいます。
今年の運行開始予定はその区間のうちの一部のみ、イースト・カポレイ〜アロハスタジアム間の15kmですが、2031年までには全面開通することを目処に計画が進行しているそうです。

全線が高架式になっており、道路と並走させることでバスや自動車とのアクセスの良さも狙っており、沿線にはアロハスタジアム、パールハーバー海軍基地、ダニエル・K・イノウエ国際空港、ダウンタウン(オフィス街)、高層マンション、各種大学など地元住民や観光客が多く訪れる施設が軒を連ねています。
開発を担当したのは日本の日立製作所で、これまでの鉄道事業で培われてきた最新の技術が用いられています。
たとえば運転はすべて自動。ホノルル郊外のオペレーションセンターで速度や状態などを管制しながら運行するシステムとなっています。
観光客にとってのメリット

それではこのHART、わたしたち観光客には具体的にどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。
空港から市街地へのアクセスが非常に容易に
まず大きなメリットとしてはダニエル・K・イノウエ空港からダウンタウンまでの移動時間がかなり短縮可能になります。通常はバスやタクシーで40〜50分ほどかかるこの区間をたったの16分ほどで移動できるようになるというのですから、観光客としてはかなり嬉しい限りです。
また自動車をつかう移動手段よりも時間が正確なことから、現地での待ち合わせやビジネスシーンにおいてもとても便利です。
このようなことから日本の企業社長なども鉄道プロジェクトとの連携に関心を示し、開発はどんどん加速していく流れになりつつあるかもしれません。
ただし2022年末に開通するのはあくまで西側のイーストカポレイ─アロハスタジアム間ですので、空港ーダウンタウン間の運行はまだ少し先の話となります。
オアフ島の観光中心地を横断できる
こちらについても今年開通の路線とは異なりますが、空港からダウンタウン、そしてワイキキビーチ方面へと横断する路線が伸びることで、オアフ島の主な観光地を電車で移動することが可能になります。
これまでは場所ごとにトロリーバスを利用して移動する必要がありました。しかしバスは乗り場や路線が複雑なため、英語の苦手な観光客にとってはハードルが高め。多少予算が高くなってしまいますが、タクシーの乗り方を覚えて移動するほうが無難な状態でした。
また自動車での移動は道路の状態によって所要時間が変わりますので、ツアーや観光予約などで時間が指定されている場合はかなり余裕をもって移動を始めなければなりません。電車が開通することでその精神的負担や時間のロスなどもかなり軽減することができるようになるのではないでしょうか。
自転車やサーフボードも乗せられる!
上記の投稿からもわかるよう、HARTのデザインは緑の大地に虹がかかったとてもハワイらしいデザイン。しかし外観だけでなく、内部にもハワイならではの便利な工夫がなされています。
移動手段の少ない土地柄もあって、車内には自転車が立てかけられるスペースが。座席は折り畳み式でスペースがとても広く、日本の電車のように狭い中でぎゅうぎゅうと人が閉じ込められるような光景はなさそうです。
また座席上の荷物置きにはサーフボードがそのまま置けるようにつくられたスペースも。オーシャンアクティビティの盛んなハワイならではの利便性が垣間見られました。
駅にもハワイらしいこだわりがほどこされており、それぞれの外壁はハワイ神話がモチーフになったデザインとなっています。駅名表記には英語とハワイ語がどちらも記載されており、観光客がよりハワイを楽しめるような気遣いが素敵です。
鉄道を開通した理由

ハワイにはもともとサトウキビを運搬するための鉄道が敷かれており、地元住民も乗せて運行していました。しかし産業の衰退にともなって1947年に廃止。
その後は人口の増加にともなって鉄道事業開始の声は高まっていったものの、なかなか実現はせず。2005年にようやく運用会社が設立され、2012年に工事が認可されました。
市民が鉄道を求める理由としては、ハワイが直面している交通問題が深く関係しています。ハワイにおける移動手段が車しかないということもあり、朝夕を中心にダウンタウンの道路は慢性的な渋滞に悩まされているのです。距離的には20分ほどの移動で済むところを、渋滞のせいでその3倍はかかるようなことが日常茶飯事。住民だけでなく、観光客にとってもそのストレスは大きくなりつつあります。
また排気ガスによる環境汚染問題も深刻です。鉄道が開通することでこれらの問題を一気に解決することができるようになります。
開通までの道のり

HARTは当初、2017年にはイーストカポレイ─アロハスタジアム間の運行がスタートする予定でした。しかし実際に開業できるのは今年末。大幅な工事の遅れの原因には予算の見込み違いや中心部近郊の開発の遅れ、新型コロナウイルス蔓延による財政難などさまざまな問題が関係しています。
鉄道の総工費はもともと30〜40億ドルとされていましたが、路線すべてを高架にしたこともあり実際に必要だったのは倍の80億ドルほど。その主な財源は税金や国からの補助金です。そのことから地元住民からは「沿線住民の1人当たり負担額が世界で最も高額な鉄道路線」と揶揄されることもあります。
地域の開発の遅れに関しても顕著で、いまだ畑の真ん中にぽつんとある駅も少なくないそう。駅自体は完成にほど近い状態ではありますが、そこに住宅街を開発するのにまだ数年かかる状況で、全路線の開通にはまだ時間がかかることが伺えます。
とはいえ土地はすでに大手のディベロッパーが買い占めており、住宅や高層マンションが建設されることは決定していること。ハワイオアフ島の街づくりはまだまだこれからであり、将来的にはさらに便利で住みやすい環境が約束されています。
今後の課題

HARTが抱える今後の課題としては、75年にわたって鉄道がなかった土地にどう「鉄道文化」を根付かせるかということ。
渋滞問題の緩和のために開通した電車ですが、そもそもハワイには電車を見たことすらない人が多く、「車のほうが便利で安心」という意識が改革されるかどうかはまだわからないそうです。
工事の遅れも鉄道設置の反対意見を増やす原因となっており、今後は地元住民からの理解を得つつ開通を進めていく必要があるでしょう。
予定されている路線

それでは最後に、今後HARTで予定されている路線についてまとめてみます。
駅名(日本語) | 駅名(英語) | 最寄りのスポット |
---|---|---|
イースト・カポレイ駅 | East Kapolei | |
ハワイ大学ウェスト・オアフ駅 | University of Hawaii West Oahu | |
ホオピリ駅 | Hoopili | |
ウェスト・ロック駅 | West Loch | |
ワイパフ・トランジット・センター駅 | Waipahu Transit Center | ワイパフ・トランジット・センター最寄り駅 |
リーワード・コミュニティ・カレッジ駅 | Leeward Community College | リーワード・コミュニティ大学最寄り駅 |
パール・ハイランド駅 | Pearl Highlands | |
パールリッジ・センター駅 | Pearlridge Center | パールリッジ・センター最寄り駅 |
アロハ・スタジアム駅 | Aloha Stadium | アロハ・スタジアム最寄り駅 |
真珠湾海軍基地駅 | Pearl Harbor Naval Base | 真珠湾海軍基地最寄り駅 |
ホノルル国際空港駅 | Honolulu International Airport | ダニエル・K・イノウエ国際空港最寄り駅 |
ラグーン・ドライブ駅 | Lagoon Drive | |
ミドルストリート・トランジット・センター駅 | Middle Street Transit Center | ミドルストリート・トランジット・センター最寄り駅 |
カリヒ駅 | Kalihi | |
カパラマ駅 | Kapalama | |
イウィレイ駅 | Iwilei | |
チャイナタウン駅 | Chinatown | |
ダウンタウン駅 | Downtown | 中心街最寄り駅 |
シビック・センター駅 | Civic Center | |
カカアコ駅 | Kakaako | |
アラモアナセンター駅 | Ala Moana Center | アラモアナセンター最寄り駅 |
※赤字は2023年以降開通予定
まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回はハワイで2022年末に開通する鉄道「ホノルル・レール・トランジット」、通称HARTについて最新の情報や開発の背景、路線についてまとめさせていただきました。
観光客にとって現地での移動手段というのはとても大切なものです。しかしバスやタクシーのみしか公共の交通機関がないハワイでは、どうしても移動に関しては不便さを感じざるを得ません。
また自動車による通勤・移動があまりに多いことからおこる慢性的な交通渋滞、そして排気ガスによる環境汚染も深刻です。
それらの問題をすべて解決できる手段として鉄道の開発が長い道のりを経てようやく実現されました。今後はハワイの地元住民に鉄道文化をいかに根付かせるかという課題もありますが、少なくとも空港〜ダウンタウンを繋ぐ路線が開通することで観光客としてはとてもありがたい存在になることでしょう。